生涯の傷に絆創膏とカルテを * ページ31
「もしアタシが死んだらさ、今かけてる曲をお葬式で流してよ」
バカっぽく笑いながら放たれた不謹慎なセリフに、一瞬理解が追いつかなかった。
言葉の意味を飲み込もうとして、喉が詰まる。
洒落にならないから辞めてよ、と言ってやりたかったが、言えば貴女を悲しませてしまうような気がして、願いを聞き入れる事にした。
「良いけど……逆にかけて良いの?バチバチのロックだよこれ」
「良いの!そっちの方が面白いじゃん。アタシ、お葬式ムードなんてヤだよ」
「お葬式にお葬式じゃないムードを求めるなよ。と言うか、私にそんな権限あるのかな」
「できたらで良いからさ」
「まあ、そんな日は来ないのが一番だけどね」
最後にさりげなく、本音を込める。
私は笑ってそう言ったが、依然動悸は治まらないままで、貴女の顔は見れなかった。
それで、まあ結局、あのバンドの曲をお葬式で流すのは無理だった。
せめて墓の前でかけてやろうとも思ったのだが、どうしても指が震えて、再生ボタンが押せなかった。
でも多分、押せていたとしてもまともに聞けやしなかったと思う。
だって、今でもギターの音と貴女の声を思い返すだけで、涙が溢れ出して止まらなくなってしまうのだから。
楽しかった思い出や幸せだった記憶が、涙で塗り替えられていくのが、何かを失ってしまうようで辛くて、怖くて。
それでも思い出してしまって、その度に嗚咽を漏らしながら泣いていた。
いっそ忘れてしまいたくて、もう指が震えなくなってからもずっと、あの曲を聞かない事を選んでいるけれど。
貴女がここに居た事を、せめて記録には残しておきたくて。
もう聞く気のない曲で、二度とかける事のないプレイリストを作っているのだ。
貴女と私が一緒であった証に。
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miko(プロフ) - 通りすがりの人Aさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます…!タイプと言って頂けて光栄です。考察までしてくださって嬉しい限りです!お心遣いもありがとうございます。次回作も楽しんで頂けると幸いです。 (10時間前) (レス) id: 9457fcfd26 (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりの人A - 「大人になるということ」、個人的な考察として富士樹海のことなのかなぁと勝手に考察していました。樹海のまた別の特長も相まって人生に迷子になっちゃったんだろうなぁと、考察のしがいがありました。次回作も読ませていただきます。 (5月7日 21時) (レス) @page15 id: 6d2a917923 (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりの人A - コメント失礼します。話の展開や言葉遣い、細部に至るまでのこだわり、本当にタイプの文に久しぶりに出会えて大満足です。素敵な作品ありがとうございます。→(字数上次になりますが次の文は考察含みますので作品様の方針にそぐわない場合消していただいて構いません) (5月7日 21時) (レス) @page15 id: 6d2a917923 (このIDを非表示/違反報告)
miko(プロフ) - 富司純河さん» 励みになるお言葉をありがとうございます…! (4月30日 2時) (レス) id: 9457fcfd26 (このIDを非表示/違反報告)
富司純河(プロフ) - 続編お待ちしております。 (4月29日 10時) (レス) @page49 id: ecd0918c08 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:miko | 作成日時:2023年5月10日 3時