蝶は鳥にはなれずとも 4 (ページ11)

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裏表。ページ11

『…人間、誰もが裏表を持っていると思わない方が良いんじゃないかな。』

「そうね。私には、裏表が無いもの。」

案外すぐに肯定したと思ったら、これである。
清々しい程に強引な人だ。

「だけど、大抵の人間は本音と建前を使い分けている筈…貴方達だってね。」

その言葉には、何も返答しない。
さぁね、裏表があるか無いかは鈴音さんが判断して頂戴。

『…なるほどね。鈴音さんからしたら、善意と偽善は表裏一体の関係性なんだ。だから、信じないようにしてる…と。』
「そういうことよ。」

それは裏を返せば、信じることを極端に恐れているとも受け取れる。
裏切られることや嘘を吐かれること…信じていた物事がいとも簡単に覆されることへの恐怖心が故か、或いは。
思考の海に沈みかけていると、清隆が口を開いて意識を引き上げられる。

「そろそろ、白状したらどうだ。」
「…一体何をかしら。」
「お前、この試験が始まった時から体調悪いだろ。」
「っ…別に、普通よ。」

しらばっくれるつもり？そんな火照りかけている顔をして、誤魔化せるのは同級生達だけよ。
鈴音さんにいよいよ切り込むのかと悟り、私も立ち上がる。
清隆がそれを見て、私の名前を呼んだ。
はぁい、白状させるのね。
私は、ぼんやりと立ち尽くす鈴音さんの間合いを詰める。
いつもなら間合いに入らせる前に退いている鈴音さんけれど、今はそれすら追いつかないらしい。
余程弱っていると見える。
何をするの、と伸びてきた右手をパシッと掴んだ。
武道の心得があると言っていた割に、随分と緩やかで優しい突きね。
更に距離を詰め、顔も近付ける。
振り解けないと察した鈴音さんが、固く目を瞑った。
別に痛いことするわけじゃないのよ、そんな警戒しないでって。
鼻同士がくっつきそうな距離まで鈴音さんに顔を寄せ、そのままコツンと彼女の額に私のそれを当てた。
あっっっつ。
え、待って熱いよ相当。
動揺して、目を泳がせた。

「どうだ、A。」
『かなりあるね、38度はあるんじゃないかな。』
「…気付いてたの？」

誤魔化せないと悟ったらしい鈴音さんが、肩の力を抜いて素直になった。

「船のデッキで顔を合わせた時、Aがお前に何をしていたか聞いただろ。」
「…部屋で読書していたと答えたわ。」
『本当は、辛くて部屋で眠っていたんじゃないの？』
「…」
『他の皆には、黙っておくつもり？』
「…もう5日も我慢しているもの、ここでギブアップしたら無駄になる。」

こりゃ…そろそろね。