Aぇの紅一点神出鬼没のお姫さまⅡ (ページ23)

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いつか笑って - sano ページ23

( 佐野晶哉 side )

『～～～～♪』

楽屋の扉を開けると、中から囁く歌声が聞こえてきた。
声ですぐに歌っているのがりりちゃんだというのが分かる。
歌声の小ささにつられるようにそーっと中をのぞき込むと、奥のソファに座った予想通りの彼女が膝にのせた雑誌をめくりながら、聞いたことのあるメロディーを口ずさんでいた。

それだけで絵になってしまうような姿。
そんなりりちゃんの肩には、背中を丸め込むようにした正門くんがよりかかっている。
二人が気をゆるしている空気が扉のほうまで感じられる気がした。

佐野「……」

正門くんとりりちゃんに俺が出会ったのはほぼ同時。
出会ったばかりの頃から二人は特別だと分かっていた。
【特別】仲が良かったし
【特別】一緒にいるところを見た。
正門くんは【特別】りりちゃんのことを気に掛けていたし
りりちゃんは【特別】正門くんの変化に敏感だった。
売り方とかシンメとかじゃなく
二人は一緒にいるんやと思う二人。

だから今の状況は今まで以上に自然なものや。

二人とも大事なメンバ－で幸せそうで良かったと思うのも本音。
だけど、少しだけ胸が痛くなるのも本音やった。

入り込む隙なんてないのだから好意を持ってもしょうがないって分かっていた。
だから好きとは違う。
憧れのような尊敬のもっと上のような。
この気持ちがなんなのかの答えは胸が痛んだってはっきりせん。
いつかそんな気持ちの答え合わせを
笑ってりりちゃんに伝えられる日もくるんだろうか？

りりちゃんの口ずさんでいたラブソングが止まる。
正門くんが身じろぐとゆっくりと目を開けた。

俺は飲み物を買ってこよう、と開けたはずの楽屋の扉を音がならないように閉めると来た廊下を戻った。